派遣薬剤師の時給が高いのは有名です。しっかりと働けば、当然年収も高くなります。しかも、派遣会社の規定に沿って有休は取れるし、福利厚生も受けられるし、いっそのことずっと派遣で、という人が増えてもおかしくありません。
しかし、実際はどうなっているのでしょうか?
平成29年賃金構造基本統計調査によると、薬剤師の所定内給与をもとにした平均年収は、およそ511万円です。
では、派遣薬剤師の年収はどうでしょうか?時給をもとに計算してみましょう。派遣薬剤師の時給は地域や経験などによって幅があり、2,500円から5,000円が相場となっています。たとえば時給3,000円として1日8時間働けば、日給24,000円。年に120日休みを取って245日働くとすると、単純計算で年収588万円になります。時給4,000円で同様の計算をすると、なんと年収は784万円になり、男女を問わず、平均を大きく上回る年収が期待できるのです。
しかも、派遣の場合は基本的に残業もありませんから、自分の予定が立てやすく、仕事とプライベートの両立も可能です。派遣会社の規定に沿って有給休暇もとれますし、社会保険や産休・育児休業、介護休業もきちんと用意されています。 「なんだ、これなら派遣一本で行った方がいいじゃない」という声が聞こえてきそうです。しかし実際は、派遣で働く薬剤師は、全体の5パーセントから8パーセントと言われます。では、いったい何が問題なのでしょうか?
まず、なぜ派遣薬剤師の時給が高いのかを確認しておきましょう。それは依頼する側に、派遣ならではのメリットがあるからです。
まず、採用コストがかかりません。普通に正社員やパートを直接雇おうとすると、求人広告を出し、応募者を書類選考して、面接を経て採用となりますが、派遣薬剤師の場合はそうした手間が省けます。
次に、必要なときに人が雇えるのも大きいです。通常の採用では数カ月かかってしまいますが、派遣なら派遣会社に頼むとすぐに派遣してもらえます。繁忙期や正社員が急に辞めて補充するまでのつなぎ、産休や育休を取っている正社員の穴埋めなどに重宝します。そして、不要になったらすぐに契約を止められます。
さらに、即戦力が雇えるということです。派遣薬剤師の多くは他の派遣先で同じような業務を経験しているため、手取り足取り教える必要がありません。 このように、派遣薬剤師は、依頼する側に数々のメリットがあります。その分時給が高いわけですが、裏を返せば極めて不安定なポジションともいえるのです。
高額時給の派遣先は地方の不便なところが多く、車でないと通勤できなかったり、冬期は積雪があったりすることがあります。通勤時間帯に路面が凍結すると、運転に慣れない人は交通事故が心配です。 へき地での勤務は一人薬剤師の問題があります。薬剤師が一人だと何役もこなす必要があり、その人に全てがかぶさって休憩や休暇が取りにくい、という不満を持つ人も多いのです。
加えて、年間245日働くには、一つの派遣業務が終わったら間隔を空けずに次の派遣先を探さなければなりません。 こうしたリスク防ぐためには資格を取るなどして、都市部で少しでも高い時給が取れるよう、自らをスキルアップしておきましょう。
たとえば、研修認定薬剤師、漢方薬・生薬認定薬剤師といった認定薬剤師の資格を取る。あるいは、がん専門薬剤師、妊婦・授乳婦専門薬剤師、精神科専門薬剤師といった、専門資格を取ることです。 資格を生かして、高い時給で、間隔を開けずに派遣先を次々と紹介してもらうことができれば、正職員に劣らない年収を得ることもできるでしょう。
派遣薬剤師の時給や年収は高いのですが、リスクもあります。派遣だけで正規雇用と同じだけの年収を確保するのは、それなりの努力が必要です。
資格を取るなどスキルアップしながら、間隔を開けないで活躍できるように工夫しましょう。