そんな名前の病気知らないな、と思った経験はありませんか?世界中には数え切れないほどさまざまな疾患があり、名前がついていないものもたくさんあります。私たち薬剤師が大学で学ぶ疾患なんてごく一部で、メジャー中のメジャーなのかもしれません。そこで今回はあまり聞きなれない疾患を探してみました。
ヒトゲノム計画が終了してから15年余り。遺伝子に関する研究も大きく前進しました。21トリソミーによって起こるダウン症候群は有名ですが、薬学部では具体的な治療法を詳しく学びませんし、それ以外の遺伝子・染色体の異常についてはほとんど触れません。
たとえば「歌舞伎(メーキャップ)症候群」を知っていますか?この症候群はKMT2D遺伝子(MLL2遺伝子)の異常によって引き起こされます。特徴は症候群名の由来でもある歌舞伎の隈取をしたような顔貌。重大なてんかんや心疾患を併発する例も多く、長期的なケアが必要です。
遺伝子・染色体異常は1p36欠失症候群のように異常のある部位や、ダウン症候群のように発見した医師の名前が付く場合が多いですが、種類は本当に様々。根本的な治療は難しくとも、対処療法的な薬物治療でも患者さんのQOLを大きく向上させられます。それぞれの特徴と治療をしっかり勉強したいですね。
「猫ひっかき病」の患者さんに出会ったことはありますか?少しふざけたような名前ですが、正式に使われている名前です。この疾患の原因はネコノミがもつバルトネラヘンセレ(細菌)への感染で、その名の通り猫にひっかかれることで発症します。腕をひっかかれると腋窩、足をひっかかれると鼠径部など近くのリンパ節が数ヶ月にわたって腫れたり治ったりを繰り返します。
免疫に異常がなければ抗菌薬を使用しなくても完治しますが、マクロライド系、ニューキノロン系、テトラサイクリン系が処方されることが多いようです。この疾患で来局した患者さんへ特別な服薬指導をするというより、普段から衛生関連の注意喚起をするのが薬剤師の仕事かもしれませんね。
「自動醸造症候群(Auto-Brewery Syndrome)」を聞いたことがあるでしょうか?この症候群は、お酒を飲んでいないにも関わらず血中アルコール濃度が高まり、酩酊状態になるというもの。原因は腸内にビール酵母やイースト菌が定着しアルコールを産生する、基礎疾患として短腸症候群を持つ、などいくつかあるようです。菌交代症に似ているような気もしますね。
直接死に至ることはないようですが、患者本人が知らずに運転した場合、飲酒運転と同じ状態になりますから非常に危険。飲酒をしていない証明も困難ですから患者は困ってしまいます。珍しい症例ですが、医療者として知っておくと重大な事故を未然に防ぐことができるかもしれません。
どの疾患も知っていましたか?大学で学ぶ機会がなく、治療薬がない疾患でも、薬剤師が介入できないわけではありません。対処療法として効果のある薬を提案できるかもしれませんし、既存の薬での治療例を見つけられるかもしれません。まだまだ知らない疾患があると思うと、日々の勉強が欠かせないですよね。
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ちゃちゃ 薬剤師。大学で研究をしながら週末はドラッグストアで勤務。見聞を広めるため医療系ライターとしても活動中。 |