女医が仕事と妊娠・出産・育児の両立が難しいと感じる要因は多数ありますが、最も大きな理由として「医療施設の慢性的な人手不足」が挙げられます。ギリギリの人員で回している現場が多い一方で、施設経営側は「今の人数で運営できている」と判断し追加の人員を増やしてくれない、医局が人員を送ってくれないといった悪循環が妊産婦を苦しめています。
ここでは、人手不足が妊産婦の女医に与える悪影響やリスクについてお話ししていきます。
初めに、妊産婦を守る法律についておさらいしてみます。妊産婦は労働基準法や男女雇用機会均等法により、夜勤免除や時短勤務を申請できる権利があります。また、この法律は、雇用側が面接時に「妊娠の可能性」や「産休を取りたいか」といった質問をすることも禁止しています。
しかしながら、実際の医療現場では慢性的な人手不足であることから、雇用主は、妊産婦はもちろん妊娠していなくても結婚したばかりの女医の雇用に慎重になり、面接時にプライベートな質問をされた方も少なくないと思います。また、妊産婦である女医側も、採用に不利になることを危惧して正直に妊娠希望を報告できなかったり、周囲への負担が増加することに気を使って時短勤務の申請を強くできない現状があります。
比較的人員が多い大学病院を除いて、どの医療施設もギリギリの人数で運営しており、慢性的に人員は不足しています。大学病院の人手不足が深刻な地域では関連病院に回せる人手が足りず、規模縮小を余儀なくされている施設もあります。
実践的な経験が積めるため、若手医師に人気の急性期病院においても、医師1~10年目の若手医師が安給で酷使され、実力がつき中堅層になってくると、労働に見合う診療報酬を求めて他施設に移るため、技術や能力の高い医師が流出してしまうという構造的な問題が深刻です。
医師1~10年目は女医の結婚や出産時期と重なりますが、経験やキャリアのため、妊娠中に子宮収縮を抑えるウテメリンを飲みながら過酷な勤務をこなす女医も少なくありません。
夜勤や緊急オンコール対応のため、就業時間が不規則で肉体的な負担のかかる仕事が多い医療現場では、切迫流産の数が必然的に多くなります。女医は高齢出産での初産も多いため、授かった赤ちゃんを絶対に産みたいという気持ちが大きく、安定期に入ってからの出血は非常に不安になります。
日本医療労働組合連合会の2017年の調査では、看護師の3人に1人が切迫流産経験者であり、半数が夜勤をこなしているという結果がでています。医師の場合、夕勤・夜勤という勤務体制がないため、早朝から深夜近くまでの勤務もしばしばです。当直の後の通常業務がある場合24時間以上連続勤務となるケースもあるので、女医に関しても看護師の結果とほぼ変わらないか、あるいはデータとしてはもっと多くなる可能性があると言えるでしょう。
ここまで、医師としてのキャリアと妊娠・子育て両立を阻む、医療現場の慢性的な人手不足の現状と悪影響についてお伝えしました。妊産婦の女医が、周囲に迷惑をかけまいと頑張ってしまう気持ちは痛いほど理解できます。だからこそ、無理がたたって体調を崩したり、切迫流産で勤務停止になってしまう方が、胎児の命の危険という意味でも、職場の同僚の負担が増大してしまうという意味でも、大きなリスクとなるということを十分理解しておいてください。
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めぐみ マイナー外科7年目。5年目の海外留学時に妊娠・出産。産後6週目より仕事に復帰し、育児と仕事の両立の難しさに直面しつつ奮闘中。経験を生かし、内科・救急・健診業務なども行なっています。 |