2年に1度見直される診療報酬改定は、医療保険を中心に医療に従事している者にとっては最大の関心事ですよね。
診療報酬が1点(1点=10円)変わるだけで、年間の売上に大きく影響するからです。つまり医療機関の経営や医療従事者の給与にも影響を与える可能性があることは、皆さんもご存じだと思います。
前回は2016年4月に診療報酬の改定が行われました。今回行われた改定で私たち薬剤師が最も注目すべきポイントは、新たに設定された「かかりつけ薬剤師・薬局」の仕組みです。
「かかりつけ薬剤師・薬局」の誕生によって一体薬剤師にどのような変化がもたらされるのでしょうか。診療報酬改定の具体的な点も含めてみていきましょう。
国としては限られた財源の中で、国民に安心・安全で質の高い医療の提供を行わなければなりません。その一方で、高齢化社会が進む日本では医療費が膨らみ国家予算を圧迫し続けています。
そこで、医療費を抑える政策をとりつつ、医療現場の課題や強化されるべき指針を考慮して診療報酬が改訂されます。
2016年4月の診療報酬改定は以下4つの基本的視点を基に取り組まれました。
医療機能の分化・強化・連携を一層進めること
かかりつけ医・かかりつけ歯科医・かかりつけ薬剤師・薬局のさらなる推進を通して患者にとって安心・安全で納得できる医療を実現
認知症患者へのケアなど重点的な対応が求められる医療分野の充実
大型門前薬局の評価の適正化、費用対効果評価の試行導入など医療費の効率化・適正化を図ること
この4つの視点を基に、診療報酬の改定は全体で見ると医科で+0.56%、歯科で+0.61%、調剤で+0.17%という結果になっています。
一方薬価と材料の改定は-1.22%と-0.11%で合計1.33%引き下げられました。単純にプラスの改定は報酬が上がることを、マイナスの改定は報酬が減ってしまうことを意味します。
つまり、調剤報酬はわずかなプラスですが、薬価が大幅に引き下げられたことで保険調剤薬局の収益は下がることになり、今回の診療報酬改定は薬局・薬剤師にとって厳しい結果といえます。
そこで診療報酬を少しでも上げるために、薬局が取り組みたいのが今回新しく設定された「かかりつけ薬剤師」「かかりつけ薬局」を目指すことです。
保険薬剤師として一定年数以上の薬局勤務経験
当該保険薬局に週の一定時間以上勤務
当該保険薬局に一定年数以上の在籍
研修認定の取得
医療に係る地域活動への参画
これらの要件を満たし、地方厚生局長等に届け出ることによって「かかりつけ薬剤師」としての診療報酬を加算することができます。ただし、診療報酬を加算する場合は患者さんの同意が必要になります。
さらに厚生労働省が定めている、かりつけ薬剤師の業務としては、以下のように定められています。
患者の全ての受診医療機関と服薬状況を一元的に把握
調剤後も患者の服薬状況や指導内容を処方医へ提供し、必要に応じて処方提案
患者からの相談に24時間応じられる体制
必要に応じて、患家を訪問し服用薬の整理
かかりつけ薬剤師には、患者さんの服薬状況を一元的・継続的に把握・管理し、かかりつけ医と連携して必要に応じて処方内容の疑義照会や処方提案を行うことが求められます。
現在のところ国として「かかりつけ薬局」になるための基準を特に設けていません。しかし、患者さんの服薬状況を一元管理するためにも、患者さんが信頼できる「かかりつけ薬局」を決めることを推奨しています。
かかりつけ薬局を決めることで患者さんは重複投薬を避けたり、サプリメントなども含めた併用薬の相互作用の確認ができたり、緊急時には24時間電話相談ができたりときめ細かなサポートを受けられるメリットがあります。
一方でかかりつけ薬局として選んでもらえると、薬局側にとっても患者さんの全ての処方箋を調剤できるので診療報酬面でのメリットがあります。
では、かかりつけ薬剤師が服薬指導を行った場合、診療報酬においていくらのプラスが生じるのでしょうか。
以下の図にも示した通り、かかりつけ薬剤師指導料は70点(700円)です。一方かかりつけ薬剤師以外の薬剤師が行う指導料は50点あるいは38点(500円/380円:条件によって変わります)です。
つまり、かかりつけ薬剤師が服薬指導することによるプラスの収益は、200円から320円という計算になります。患者さんの自己負担に換算すると3割負担の場合で100円程度です。
かかりつけ薬剤師として診療報酬を頂くためには、患者さんが追加で100円負担しても「かかりつけ薬剤師に担当してもらいたい」と思ってもらえるような管理・指導を行う必要があるのです。
診療報酬改定から見ると、薬剤師の立場は厳しくなる一方です。社会から求められている職務を最大限発揮し存在価値を高めていく必要があり、今はその過渡期ともいえるのかもしれません。
患者さんの「かかりつけ薬剤師」として機能し続けるためにも、幅広い知識の習得を心がけるだけではなく、ひとり一人の患者さんにあったきめ細かなサポートなど日々の努力が必要になってくるでしょう。
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やや オランダ在住のフリーライターです。調剤薬局に勤務したのち、化粧品処方開発、新製品のプランナーやマーケティングなどに携わりました。 薬剤師の免許を所有しており、知見をいかして医療・美容、そして海外生活など幅広いジャンルで活躍しています。 |