時代の流れと共に薬剤師が担うべき役割も変化しており、私たち薬剤師はニーズの変化に合わせて柔軟に対応していくことが求められています。平成28年から新たに、「かかりつけ薬剤師」制度が始まりました。
かかりつけ薬剤師として私たち薬剤師は、どのようなことが求められているのでしょうか。必要とされている「知識」と、それを習得するための「研修」についてご紹介します。
まずは、「かかりつけ薬剤師」が誕生した背景についてみていきましょう。
日本では昭和50年頃から医薬分業が国によって推進され、医薬分業率は平成26年には68.7%にまで至っています。そもそも医薬分業は、医師と薬剤師がそれぞれ専門分野で業務を分担して国民の健康・医療の質を向上する目的で進められてきました。
しかし、実際には医療機関の周りに門前薬局が乱立し、患者個人の薬の一元管理ができておらず、薬局の本来の機能が十分発揮されていないという現状があります。
また、国民医療費では調剤技術料が1.8兆円、薬剤料が5.4兆円にまでのぼり医療費を圧迫しています。
このような背景から調剤薬局・薬剤師への世間からの風当たりも強くなり、薬局と薬剤師の全体の改革が進められることになりました。そこで、薬局や薬剤師の役割を見直し、機能やサービスに見合う診療報酬を設定するために「かかりつけ薬局」「かかりつけ薬剤師」が誕生したのです。
1.薬剤師として3年以上の薬局勤務経験があり、同一の保険薬局に週 32時間以上勤務しているとともに、当該保険薬局に半年以上在籍していること。
2.薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得していること。
3.医療に係る地域活動の取組に参画していること。(地域の行政機関や関係団体等が主催する講演会、研修会等への参加、講演等の実績)
上記要件にも記載がある通り、かかりつけ薬剤師は薬剤師認定制度認証機構が認証している研修を受け、「研修認定薬剤師」にならなければなりません。
研修認定薬剤師になるには、認定の対象となる研修を受け40単位以上(最長4年以内、毎年5単位以上)取得して申請・登録します。さらに研修認定薬剤師は3年毎に更新が必要です。つまり定期的に研修に参加し知識を身につける必要があります。
以上がかかりつけ薬剤師になるための条件です。
かかりつけ薬剤師に求められることとして、「患者さんの服薬情報の一元管理ができている」ということが非常に大切です。
一元管理の最大のメリットとしては重複投薬、多剤投薬や相互作用を未然に防ぐことができるということです。患者さんへのリスクの軽減だけでなく、医療費の削減にもつながります。
また、一元管理をすることで患者さんの状態を継続的に把握し、残薬管理、副作用の確認も行うことができます。
これまでは、近隣の医療機関からの処方箋に基づいた調剤が基本でしたが、かかりつけ薬剤師になれば患者さんの全ての薬・健康状態を管理・把握することになります。
例えば、がんやHIV、難病のような疾患を有する患者さんの場合は併用薬などに特別の注意が必要となってきます。つまり幅広く高度な薬学管理が求められ、多岐に渡る知識が必要とされるのです。
かかりつけ薬剤師は、いつでも患者さんの要望に応える必要があります。職場によっては、24時間対応や在宅医療に携わることもあります。
例えば24時間対応では、子どもを持つ親や妊娠中の女性の薬の副作用や飲み間違い、服用のタイミングなど夜間や休日であっても相談に応じ正しい知識を持って指導をすることが求められています。
また認知症患者や寝たきりの高齢者が増加する中、在宅医療のニーズも高まってきています。その中でかかりつけ薬剤師は、医療機関と連携をとって服薬アドヒアランスの向上や残薬管理などの業務に積極的に関与していくことが求められます。
調剤薬局の薬剤師は、これまでは保険調剤による服薬指導・管理が主な業務でした。しかし、国の病気予防や健康管理の推進により、かかりつけ薬剤師は患者さんの「セルフメディケーション」も高めていくことが求められています。
セルフメディケーションでは、患者さんの健康維持・増進を支援するために、食生活の指導・運動の指導・健康食品やサプリメント、OTCのアドバイスなど医薬品以外の知識を持つ必要があります。
このようにかかりつけ薬剤師には、幅広く高度な知識が求められます。求められる知識を習得するためには、薬剤師認定制度認証機構が認証する学会や研修会へ積極的に参加し、最新の医療及び医薬品情報に精通して専門性を高める姿勢が重要です。
また、医薬品だけでなく、健康増進に関わる知識も学んでいく必要があります。さらに高い職業意識と倫理観も持ち続けなければなりません。
これまでの薬剤師の業務といえば、調剤室で調剤する対物業務が中心でしたが、かかりつけ薬剤師の誕生により、患者さんの薬・疾患・健康状態全てを把握・管理する対人業務へシフトしています。
また、かかりつけ薬剤師としての役割を果たすためには、患者さんだけではなく医師や看護師などの医療関係者またその家族と円滑にコミュニケーションを取ることが求められると同時に、信頼関係を築いていく能力も必要です。
つまり、かかりつけ薬剤師に求められているのは、幅広い専門知識を持った正しい薬学管理能力とコミュニケーション能力です。皆さんも、知識を深める研修を活用して、このふたつを兼ね備えた、かかりつけ薬剤師を目指してくださいね。
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やや オランダ在住のフリーライターです。調剤薬局に勤務したのち、化粧品処方開発、新製品のプランナーやマーケティングなどに携わりました。 薬剤師の免許を所有しており、知見をいかして医療・美容、そして海外生活など幅広いジャンルで活躍しています。 |