一般に、薬剤師は転職が多いといわれています。女性比率が約7割と高いため、結婚、出産などを機に退職する薬剤師も多いのです。さらに専門職なので身につけた知識やスキルを、違う職場でも生かしやすいという特徴もあります。
では、薬剤師が転職するベストな時期とはいつでしょうか?また、避けたほうがよい時期はあるのでしょうか?
ある会社が現役の薬剤師100人を対象に、転職回数を尋ねるアンケート調査を行いました。その結果、転職したことがない人はゼロで全員が経験者でした。一番多いのは転職回数1回で52人、次が2回の27人、そして3回の17人と続き、4回が1人、5回以上という人も3人いました。
転職する理由は人それぞれです。女性の薬剤師であれば、結婚や出産、子育てのために離職するケースも多いでしょう。夫の転勤、親の介護など家族の事情でやむをえず職場を変わる人もいます。
しかし人間関係に馴染めない、長時間労働に堪えられない、給与が低い、なかなか昇給しないなど、よりよい職場環境や待遇を求めて仕事を変わる薬剤師もたくさんいます。
もし、転職をしたくなったら、その目的をはっきりとさせるとともにベストなタイミングを見極めましょう。時期を間違えると転職に時間がかかったり、損をしたり、周囲に迷惑をかけてしまうことになりかねません。
まず狙い目は、中途採用の求人が増える時期です。一般的に1月から3月は4月入社を目指した求人が増えます。さらに、4月入社ほどではありませんが、10月入社の求人が増える7月から9月も狙い目です。こうした時期に転職活動をすると、希望に合った求人を見つけられる可能性が高くなります。
次に職探しに適した時期は、ボーナスが支給された直後の7月や1月です。ボーナスは、数カ月前の業績をもとに査定されますので、支給前に辞めてしまうと損をします。また、ボーナス支給前に辞めることを職場に伝えてしまうと、ボーナスが出なかったり、減額されてしまったりということがあるので注意が必要です。
ライフイベントから適した時期を見ると、女性薬剤師の場合、結婚、出産、育児のタイミングで転職に踏み切るのもよいでしょう。本音はともかく、こうした理由であれば、離職をスムーズに進めやすくなります。
男性薬剤師の場合は、子どもが生まれた、家を買いたいなど、生活に変化が起き更なる給与アップが必要な時期に転職を検討するのもよいでしょう。
さらに、年齢によっても転職に適した時期というのがあります。
20代の転職では、ほどよい業務経験があり、即戦力として期待されるうえ将来性もアピールできます。病院や調剤薬局、ドラッグストアなど幅広い場所で仕事の機会が得られます。自分の将来のキャリアを思い描き、逆算して職場を選ぶとよいでしょう。
30代もよい転職ができる時期といわれます。この年代は働き盛りで、将来の幹部候補として期待され、管理薬剤師になれる可能性も高いので、上手に転職すれば年収アップが期待できます。
1月から3月は転職に適した時期でもありますが、注意点もあります。この時期確かに求人は増えますが、新卒が優先され中途採用が後回しになる傾向があるうえ、応募者が多いので給与などの条件交渉が思うようにいかない面があります。
加えて、4月に入社をすると新卒と同時に働き始めることになり、新しい職場で仕事を覚えたり、先輩の薬剤師に指導を受けたりする時間がなく馴染むのに時間がかかるというデメリットもあります。
人間には仕事を辞めたくなる時期や出来事があります。そうしたときに、一時的な衝動で職を変わると失敗する可能性が高くなります。
たとえば、仕事が思うように覚えられず「できない」というレッテルを貼られ落ち込んでいる際や仕事でミスをした場合、長時間労働で疲れがたまっているときなど、経験のある薬剤師でも今の職場から逃れたい一心で誤った決断をしてしまいがちです。
年齢でいえば、40代や50代の薬剤師は30代よりも選択肢が減ってきます。一般に病院薬剤師や企業の求人は30代までのところが多く、調剤薬局やドラッグストアから転職先を探すことになります。60代以上になると、正社員よりはパートやアルバイト勤務になることが多くなります。
何れにしても転職する場合は焦らずに入念に準備をし、面接や交渉などに必要な時間も考慮して、最悪の時期やタイミングで決断してしまわないよう注意しましょう。
転職するときは、新しい職場に目が行きがちですが、今の職場に迷惑をかけない時期を選ぶ配慮も必要です。たとえば繁忙期に辞めてしまうと、職場や残るスタッフに迷惑がかかります。
場合によっては強烈な引き止めにあい、なかなか退職を認めてもらえないこともあります。ですから繁忙期はなるべく避けるほうが賢明でしょう。
もし自分が中心となっているプロジェクトがあるのなら、切りのよいところまでやり遂げる、後任の人がきちんと引き継げるようにすることも大切です。途中で投げ出したように思われると印象が悪く、今後のキャリアに悪影響となることもあります。
引き継ぎ期間も重要です。特に管理職や責任ある立場の人は、引き継ぎにそれなりの時間がかかります。退職前の1週間程度は引き継ぎの期間と心得ましょう。
退職時期を決める際、忘れてはいけないのは就業規則の確認です。労働基準法では、退職の2週間前に通知すればよいことになっていますが、就業規則では1カ月前と規定されている場合も多いのです。
実際、自分の役職や責任、関わっている業務によっては、2週間では十分な引き継ぎができないことがあります。常識的には1カ月から3カ月前には辞めることを伝えるようにしましょう。
最後に、辞めたいと思ったときが転職に最適の時期という考え方もあります。辞めたいと思うのは今の職場に何らかの不満があるということですから、働く場所を変える絶好のタイミングともいえます。
ただし、一時的な不満や漠然とした不安ではなく、理由や将来の目標がはっきりとしていて、今の職場ではそれが果たせないなど長期的視点からの判断であることが重要です。
薬剤師が転職する場合、4月や10月入社にあたる時期は求人も増え、希望の仕事が見つかる可能性が高くなります。しかし、応募者も多く競争が激しくなります。転職に際しては、一次的な衝動で焦って行動しない慎重な姿勢、今の職場に迷惑をかけない時期を選ぶなどの配慮も必要です。いわゆる適した時期にこだわりすぎず、自分に合ったタイミングを見極めましょう。