近年、世界的に薬価が抑制される傾向にあり、製薬メーカーも治験を外部に委託することが増えてきました。この流れを受けて存在感を増しているのがCROです。
専門性が高くやりがいのあるCROでの仕事とは、どのようなもので、待遇やメリット・デメリットはどうなっているのでしょうか?薬剤師がCROに転職するにはどのような点に気をつければよいのでしょうか?CROで仕事をするポイントを探ってみました。
CROとは、製薬メーカーの委託を受けて、治験つまり臨床試験を推進する企業や団体のことです。ご承知のように、臨床試験は新薬の開発の際に義務付けられたプロセスで、厳格なルールや倫理規定、手順にしたがって行われ、終了までには長い時間が必要です。
日本製薬工業協会の資料によりますと、新薬の開発期間は9年から16年、成功確率は約25,000分の1、開発費用は500億円以上となっていて、新薬開発のハードルは非常に高いのです。このように、新薬開発には多額の費用と長期にわたる綿密な作業が必要なため、臨床試験も多くの製薬メーカーにとって大きな負担となっています。
しかし、1997年に新GCPが発効し、臨床試験を外部に委託できるようになり、以来CRO業界は拡大を続けています。日本CRO協会の資料によれば、2017年の市場規模は1,925億円で、2000年当時の155億円から12倍以上の規模に成長しました。
医薬品の開発は、疾病に苦しむ人を救うという重要な仕事であるため、薬の発売後も追跡調査を行い、効果や副作用の有無などを見極める必要があります。そのため、CROでの業務はデータ収集から資料作成、関係機関・団体への報告と連携など、広範囲にわたるとともに正確性とスピードが求められるのです。
CROの業務は、薬剤師としての知識や経験が活かせる専門的なものです。そのうえ、プロジェクト管理、品質管理、臨床開発モニタリング、安全情報対応、データマネジメント、統計解析など、複数のキャリアを横断的に経験できるのも特徴です。
製薬メーカーのグローバル化や医療技術の進歩によって、国際共同治験、iPS細胞などによる再生医療、希少疾患に対する薬剤の開発などが盛んになってきました。CROにおける活躍の舞台は、ますます広がっていくといえるでしょう。
CROにはいくつかのポジションがありますので、主なものを紹介しながら、メリット・デメリットを確認していきます。
まず、CRA、いわゆる臨床開発モニターとして治験のモニタリングや、それに関連する業務を行うポジションがあります。薬剤師の資格が生かせますが、製薬メーカーや病院などとのやりとりがあるため、外出や出張が多くなり、月の半分程度出張というケースもあります。
次にGVPと呼ばれる、医薬品や化粧品が製造販売された後の安全管理を担うポジションです。医薬品の有効性や安全性に関する情報を収集・検討し、必要な措置を取ります。デスクワークが中心で、コンピュータスキルや英語力が求められます。
さらに、DMと呼ばれるデータマネジメントのポジションがあります。集められた治験データを管理分析する業務です。幅広い薬学に関する知識とデータ分析のスキルが必要で、データ入力や管理、それにともなう事務作業が多く、基本的にデスクワークで外部との接触はほとんどありません。
年収はCRA、GVP、DMいずれも経験2年から3年で450万円から500万円、3年から10年の経験で500万円から700万円、管理職で750万円から850万円ほどになり、経験を積めば1,000万円を超えることも可能です。給与体系はCROによって異なり、基本給が高めで手当が少ないところや基本給が抑えめで手当が多いところもあります。
他の職種に比べると比較的高めの年収が得られるという点、基本的に土日、祝祭日が休みで、福利厚生もしっかりしている点が挙げられます。さらに、繁忙期や新規プロジェクトの立ち上げ期を除いて定時に帰宅できることが多く、家庭と仕事のバランスを取りやすいのもメリットです。有給も消化しやすいので、趣味が旅行の人は海外に行く時間も取れます。
デメリットとしては、CROは製薬メーカーと違って契約ベースの業務のため、予算管理が厳しい点が挙げられます。たとえば、交通費の関係で顧客の訪問は月1回だけで、それを超えると自己負担となってしまうことがあります。加えて、治験に必要な情報しか降りてこないので、製薬メーカーに比べて接する情報が限られるという声もあります。
さらに注意が必要な点は、外資系と内資系では勤務環境が異なることでしょう。たとえば、外資は内資より年収が高めで、フレックスタイムや週2日の在宅勤務などが認められていたりします。それに、契約にない業務はする必要がありません。
一方内資は、年収が抑えめで、9時18時で会社にいるように求められたり、在宅勤務が認められていなかったりします。通常業務の他に、人事関連の仕事や社員教育などを担当しなければならないこともありますし、クライアントやスポンサーからのちょっとした依頼を無報酬でやることもあります。
日本CRO協会の資料によりますと、CROで一番多いのはCRAで約42パーセント、次がDMで15パーセント、次いでGVPの約11パーセントとなっています。CROで働く人の学歴はどうかというと、薬学、医科学、情報処理などを専攻した人が中心となっています。しかし、CRAのポジションが一番多いので、薬剤師のバックグラウンドは強みになります。
CROが委託を受けたモニタリングプロジェクトを疾病領域別に見ると、オンコロジーが圧倒的に多く、次いで、その他の代謝性医薬品、中枢神経系、循環器系と続きます。したがって、こうした領域に関連した知識や経験があると、転職に有利になると考えられます。
CROで働くためには、幅広い薬学の知識に加えて、プロジェクトをマネジメントする力、さらにプロジェクトを推進するためのコミュニケーション力が必要です。加えて、法令やガイドラインなど最新の情報を常に学ぶ姿勢、学んだガイドラインを遵守し、正確性を重んじるとともに、コンプライアンスへの高い意識も必要です。
国際共同治験の拡大にともない、英語力も必要です。治験実務英語検定という資格制度があり、Basicレベルを受験するにはTOEIC 400点、Advance レベルはTOEIC600点程度が必要とされます。DMの仕事をしたい人は、IT知識やデータ解析・マネジメントスキルを磨くことも必要です。
近年、CROの新卒採用も増えてきました。2018年は1,000名以上が4月入社をしていますので、未経験でも若手であれば転職できる環境が整ってきています。 キャリアアップとしては、CROよりも製薬メーカーの方が年収が高いので、新卒や未経験の人はCROでCRAとして経験を積んで、より規模の大きいCROや製薬メーカーなどに転職というパターンが見受けられます。
CRO業界は拡大成長しています。製薬メーカーが治験を外部委託する傾向は今後も続くとみられ、業界として引き続き成長が期待されます。薬剤師がCROで働くにはCRAに応募することが、採用される確率が一番高いでしょう。年収はMRよりは低いもののまずまずの水準で、休暇が消化しやすい、家庭と仕事のバランスが取りやすいなどのメリットがあります。
薬学以外に、プロジェクトマネジメントやコミュニケーションの能力、英語力などが求められるので転職を希望する人は必要な準備をして挑みましょう。